90年代初頭までブルガリアは社会主義だったため、教会などに行くことが一般的には禁止されていたそうです。それでも、心悩ませる問題がある時にはどこかに導きを求めたい、というのも人情で、その心に国境はないでしょう。
そういう時代、ブルガリアの人たちの多くは占いや魔術に惹かれていました。日本でも新聞やテレビ番組で取り上げられる星占いはもちろんのこと、コーヒーや豆を使った占いを気にする人は体制が代わった今でもたくさんいます。その中でも特に人々を惹きつけてきたのが「ババ・ヴァンガ」です。訳すと「ヴァンガおばあちゃん」なのですが、彼女は全盲で市街地から少し離れた温泉地「ルピテ」というところに住んでいて、未来を言い当てるということで有名になり、導きを求める人々がたくさん訪れました。第二次世界大戦前後には時の支配者たちも彼女の家の扉をたたき、ブルガリアの社会主義体制下では彼女の予言が国家機密として扱われたそうです。
2015年に関すること、また西暦5000年よりさらに先まで見通した彼女の予言が当たるか当たらないかはさておき、彼女の死後20年以上経った今もたくさんの人々が彼女の住んでいた家を訪れます。彼女の終の棲家だった小さな家の周りは整備され、教会や公園ができました。祝日になるとブルガリア全国から車で押しかけ、いつもは静かな田舎に渋滞が起きます。こんなに人々が集まってきているのに、未だバスなどの公共交通機関もホテルもありません。
この施設のすぐ裏には75度の温泉が湧いていて、野趣あふれる風景の中お風呂に入ったり、温泉成分のたっぷり含まれた泥を塗ったりと、自然の力を感じられる場所でもあり、当の「ババ・ヴァンガ」亡き後も、ここに来るブルガリア人たちは、ここに来ると「ポロジーテルナ・エネルギア」(ポジティブなエネルギー)を受けることができる、と口々にいいます。いわゆるブルガリアの「パワースポット」になっているようです。