「しばらく口にしていないと恋しくなる味」「毎日食べても飽きない味」。誰にもそういう“心の味”があると思います。ブルガリア人にとってこれにあたるのが恐らくシレネという白チーズでしょう。
日本ではなじみがないこのチーズ、ギリシャの「フェタ」に近いと言えば想像がつくでしょうか。ヤギ乳からできたものしかフェタと呼べないのとは違い、シレネは牛、羊、ヤギ、水牛の乳からも作られています。知らずにみると日本人には豆腐に見える外観で売られていますが、実際にはサワークリームのような濃厚さとさわやかさ、そして発酵食品特有の旨味とコクがあり塩気が強く水分の多いチーズです。
このシレネ、パンにとても合うんです。特に焼き立てで皮がパリパリのパンをちぎって、シレネを一片のせてほおばると止まらなくなってしまいます。シレネをパン生地に練り込んで焼いた「ミリンカ」も大人気です。そして何よりシレネを使った代表的な食べ物は「バーニッツァ」でしょう。薄いパイ皮「コリ」でクルクル巻いてオーブンで焼くキッシュの様なパイで、日本人の私も大好きで家でよく焼きます。
このシレネ、日本人の私からすればチーズの種類のうちの一つですが、ブルガリア料理での使われ方を見ると、調味料としての可能性を感じさせる興味深い食材です。フライドポテトやサラダにはすりおろしてトッピングに、スープには手で砕いて投入、オーブン料理ではほかの具材と一緒に焼いて熱々のまま食べます。さらにはイタリア料理のはずのスパゲッティにはトマトソースに混ぜて味にまろやかさと深みを加えます。ほかの料理にも利用できないかレシピを考えると楽しくなりますね。
以前はおいしい生乳が手に入りやすかったので各家庭で手作りしていたそうですが、今ではお店から買ってくるのが普通になりました。それでも、今も大型スーパーではシレネを作るためのキットが販売されています。いつか濃厚でおいしい牛乳か羊の乳が手に入ったら、シレネづくりにチャレンジしてみようと思います。