気持ちが落ち込んだ時、ストレスに押しつぶされそうなとき、一人静かにお部屋でアロマをたいたりお香に癒されたり…。香りには心をさわやかにする効果があるそうですね。でもちょっと想像してみてください。そこは、戸外なのに空気がすばらしい、さわやかなバラの香りなのです。胸いっぱいに吸い込めます。そして、そこにいるすべての人がその心洗われる香りの空気を吸っているのです。
そんな日本ではちょっと有り得ない現象を体験できるのが6月のブルガリア、「ロゾヴァ・ドリナ」つまり”バラの谷“です。ソフィアから車で2~3時間。小さな町や村が幹線道路沿いに点在する田舎ですが、それらの間にバラ畑が広がっています。
ブルガリア全体として、バラはどこにでもあるありふれた花です。ローズヒップを採る一重の「シプカ」というバラはどこにでも自生していますし、日本ではバラ園でしか見ないような見事なバラがお庭や道端に雑草に混ざって咲いているのをよく見かけます。でもバラの谷のバラ畑にあるのは「ダマスクローズ」という特別な種類。このバラから、ある意味宝石よりも貴重なものが産出されるのです。それが高級化粧品に欠かせない、上品な香りや保湿効果の高い成分を含んだローズオイルです。さらに、オイルを精製する過程で生み出されるローズウォーターや、バラのリキュール、それにバラのジャムも人気の商品です。
たった1滴のローズオイルを精製するのに何十キロものバラが必要だそうで、その収穫には地元の人々が従事しています。その収穫の速度たるや!採り終えたバラ畑の端の方に摘み残したバラが2,3輪。少し先の方で摘んでいた地元の人たちにきくと、「採っていっていいよ。その程度では何にもならないから」手に取って顔に近づけると、ああ…あの香りがしっかりとします。また、町を出てすぐのちょっとしたわき道に、収穫したバラの集積場であるテント小屋が建っていたので覗いてみると、そこにいた家族がわざわざ袋を開けて見せてくれました。大きなビニール袋一つにバラの花が15kgも詰まっているそうで、その中から少し取り分けて、「はい、コレ! プレゼント!家に帰ったら干してお茶にしなさいね!」と渡してくれました。ソフィアに帰るまでずっと車の中はすばらしいバラの香りでむせ返るほどになりました。
観光客に人気のバラ祭りも素敵ですが、機会があったら本物のバラ畑に、できれば雨上がりの朝に車から降りてその周りの空気を胸いっぱい吸ってみてください。