ブルガリアには果物の木がたくさんありますが、その中でもブドウは特に身近なもののひとつです。個人で栽培している人も多く、郊外の住宅の庭や、首都ソフィアの住居棟でも窓辺を這わせて栽培していて、2階や3階のアパートのベランダまで伸びた木においしそうなブドウがなっていることも。また、夏の暑い日には日陰を提供してくれるので、ブドウ棚の下で井戸端会議が行われる風景をよくみかけます。日本のように、食後のデザートとしても食卓に上りますが、ブルガリアの、特に女性たちにとっては、シレネという塩気の強いチーズやパンと一緒に食べたりと、デザートでなく“食事の一品”という一面があります。
夏にはジューシーで甘い、いろいろな種類の食用ブドウが八百屋さんの店頭に出回りますが、9月から11月までの時期には市場に近い街角に大量にブドウを積み上げた露店が並び、産地から直接運ばれてきたブドウを売り始めます。もちろんこれらのブドウはそのまま食べるためでなく、ワインを作るためのもの! カベルネ・ソーヴィニオンやメルローという有名な品種だけでなく、マヴルッド、シロカ・メルニシュカ、ディミャットなどのブルガリア固有のワイン用ブドウの品種もあります。
自分の家にブドウの木がない人でも、これらの露店で何十キロもブドウを購入し、その場で機械で軸を取り実を潰してもらい大きなプラスティックの樽に注いでもらって持って帰るのです。これらの仕事は男性たちの出番です。重いものを運ぶから、だけではなく、一冬分の自分の飲み口を確保するために、一生懸命になっているのです。ブドウを選ぶところから、購入してブドウを潰し樽に詰めてもらうまで、お店の人の動きにそれはそれは真剣に目を光らせています。自家製のワインやラキア(蒸留酒)を造ることが許されているブルガリアならではの風景です。