日本でも使われる「ニッチ」という言葉の語源は、英語の「niche」(隙間)です。ブルガリア語ではニシャ(ниша, nisha)と発音し、これは壁にあるへこみの事を指します。古代のトラキア人が作ったといわれている岩のへこみは、東ロドピ山脈のあちらこちらに見られます。このへこみは人工的に造られたものですが、いつ誰が何のために作ったかはいまだに解明されておらず、謎のままです。儀式に使ったのか埋葬のために使ったのか、さまざまな仮説が立てられています。
今回は「アレクサンドロヴォ墳墓」というトラキア人のお墓の博物館に行ってきました。東ロドピ山脈に位置する、ブルガリア中南部ハスコヴォで発見されたお墓です。2000年に発見され、2009年にレプリカと出土品を展示する場所として博物館が開館しました。
実はこの博物館は、日本政府の一般文化無償資金協力の援助のもとで作られました。入口には、秋篠宮親王が開館式においでになった時の写真が、ブルガリア国旗の隣には、日の丸が設置されています。EU加盟国であるブルガリアの多くの施設には、自国の国旗の横にEUの旗が設置されているのが普通です。しかしこの場所は日本の援助で設立されたため、通常と違うとガイドの方が説明してくれました。
博物館内には、お墓の原寸大のレプリカや中の壁画が拡大されて展示されていました。また、トラキア時代に使われた生活用品や美術品も見ることができます。展示品の説明はブルガリア語、英語、日本語で書かれていました(日本人が読むと、ところどころに不自然な日本語が見つかりましたが……)。
文字を持たなかったトラキア人は謎が多い民族なので、私は当日ブルガリア語のガイドをお願いしました。彼らの生活の興味深い話を聞くことができ、質問もたくさんできてよかったです。