現在40代以上のブルガリア人の方の家には昔、「はた織り機」があったそうです。
私自身は鶴の恩返しのお話に出てくる「はた織り機」のイメージしかないのですが、20~30年前までは一般の家庭で普通に使われていたそうです。春に種を蒔き始めるまでの冬の間、家の中で、はた織りが行われていました。使用される糸の主な素材は、自分の家で飼っている羊の毛です。羊毛から糸を紡ぎ、布を織ります。その布は、掛け布団やじゅうたんなどの日常の品、伝統衣装に使われていました。
ブルガリアには、150年前から「Читалище」(Chitalishte・チタリシィテ)と呼ばれる、地域の文化や教育のためのコミュニティ、または文化センター施設があり、私の住むブラゴエフグラッドにもあります。今回、人口が700人もいない「Мламолово」(Mlamolovo・ムラモノヴォ)という村の文化センターで、やっと現存するはた織り機を見つけました。この村出身の友人の協力のもと、見学させていただき、写真を撮ることができました。このはた織り機は欠けた部分がなく、完全な状態で文化センターに寄付されたそうです。そのため今でも、使えます。
昔はどの家庭にもあったというはた織り機ですが、世代交代のタイミングで処分されてしまったのだそうです。また、組み立て式のため使える部品がすべてそろっているものは、なかなか見つかりませんでした。
個人的に、芸術的・文化的に価値があるブルガリアの物が徐々に失われてしまっていて、次の世代に引き継がれていないことを残念に思いました。現在でも羊毛から作られた製品はありますが、それらは工業製品です。「はた織り機」で作られた品は、その持ち主である高齢の親族が亡くなっても処分しなかった家に残っているだけです。
友人のお宅で、彼女のお母様の思い出の手織りの品を見せていただく機会がありました。昔は多くのブルガリア人が左右対称の複雑な模様を織ることができたと聞き、非常に驚き感心しました。